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少女はそれに対して振り向きすらせずに反応してみせ、鞘に収まった刀を背後に突き出す事で正確に男の喉を打ち抜いた。
「っおごぉぇ!!」
容赦無く喉を強打された為、奇怪な悲鳴が無理やりに絞り出された。
あっという間に二人の男を倒した少女。しかし、残りの黒服の男達は前方から扇状に襲いかかる。
流石の少女も複数の男達に一度に攻撃をされれば対応仕切れない筈だ。
少女は鞘を左手に握り、柄に右手を軽く添え、居合の構えを取る。
そして、黒服の男達が間合いに入った瞬間、一筋の閃光が走った。
いや、それは閃光見間違う程の鋭い太刀筋だったのだ。
閃光のような抜刀の後、男達はピクリとも動かず、時が止まったような静寂がビルの屋上を支配する。
少女は抜刀をしたまま固まっていた体勢を正して、刀を事も無げに白い鞘に納める。
チン、と静かに刀の鍔が鳴ると同時に男達は一斉に首から血を噴き出し、力無く崩れ落ちた。
少女はそれをひどく冷めた眼で見て、その場を後にしようとした。
が──
「ちょっと失礼」
──人に道を尋ねるような、第三者の軽い声と共に、ハンマーで殴られたような重い衝撃が少女の腹部を横から貫いた。
「っ──、は!」
少女はその衝撃に耐えられずに吹っ飛び、屋上の手摺に背中を激しく打ち付けた。
突然の衝撃による痛みに顔をしかめながらも少女は顔を上げ、攻撃を仕掛けた張本人を睨み付けた。
そこには、身の丈程の長さの黒い鉄根を右手に持ち、額にバンダナを巻いた黒いスーツの成年が立っていた。
彼の表情はかなり気怠そうであり、ネクタイを緩めてスーツをだらしなく着崩している所から、彼からやる気や気迫といった物が感じられず、今の一撃が彼の物である事が疑わしい。
彼の一番の特徴は、気怠そうな表情ではなく、額に巻いたバンダナでもなく、左頬に刻まれた刺青だろう。
少女は彼の姿を見た途端に驚きに目を見開いた。
「お、お前は"時雨(しぐれ)"!!」
「おう、久し振りだな。元気にしてたか?」
自分で危害を加えたというのに成年は悪びれた様子も無く、気さくに挨拶をしてくる。
だが、少女は手摺を支えにしながら震える身体を起し、牽制するように睨み付ける。
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