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「うげっ、もう12時かよ。明日起きられるか?」
静まり返った住宅街。そこを一人の少年がぼやきながら歩いていた。
彼の名は冬崎 拓(とうざき たく)。
灰色の頭髪とややツリ目がちの気の強そうな眼が特徴でよく不良と間違われる。
彼は今年の春に高校二年生になった普通の少年だが、一つだけ特異な点がある。
それは、記憶喪失。
彼には十一歳以前の記憶が無いのだ。
しかし、本人は特に気にした様子も無く、ごく普通の生活を送っている。
「燈弥(とうや)のアホめ、勝てない勝負を何回も仕掛けやがって」
拓はブツブツと文句を言いながら歩みを早める。
そして、住宅街を抜けた所である者と出くわした。
それは、一人の少女だった。
歩く度になびく程の、シルクのような柔らかな銀髪。抜き身の刀剣のような鋭い眼光を持った切れ長の眼と長いまつげ。
彼女は、拓が今まで見てきたどんな女性よりも美しかった。
一瞬の間だけ、銀髪の少女に眼を奪われた拓だが、すぐに少女の異常に気が付いた。むしろ気が付くのが遅すぎたくらいである。
銀髪の少女の異常とは、左手に握る刀と彼女の服に付着した大量の血痕。そして、ふらふらとしたおぼつかない足取りだ。
何があったのかは拓には知る由も無いが、彼女が今にも倒れるくらいに弱っているのは明らかだった。
「お、おい──」
「大丈夫か?」と銀髪の少女を気遣おうとして、拓が右手を伸ばした瞬間、銀髪の少女は持っていた刀を腰に構え、身を沈めた。
そして、先程までの弱っていた様子が嘘のような動きで、一瞬の内に拓を刀の間合いにおさめた。
銀髪の少女の動きに驚き、拓は身体が硬直した。しかし、銀髪の少女は止まらず、流れる動作で刀を拓の首を狙って鞘から抜き放つ。
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