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「……家に運んで来たまでは良かったんだけど、これって犯罪の域に片足突っ込んでないか?」
誰に言う訳でもなく拓は一人呟いた。
10階建てのワンルームのマンション。そこが拓の家である。
現在、拓は一人暮らしをしている。
別に両親は死んでいる訳ではないし、捨てられた訳でもない。
では、何故一人暮らしをしているのかと言うと、病院に通っているからである。
病院と言ってもそれ程深刻な病気を抱えている訳でない。ただ、失った記憶を取り戻すためである。
病院は実家から遠いため、両親が「一人暮らしをすれば良いじゃん」と言って、軽く承諾したので拓は一人暮らしをしている。
拓は自分のベッドに寝かした銀髪の少女を見る。
血まみれである事を気にせずベッドに寝かした銀髪の少女。
そのおかげで拓のベッドも血まみれになっていたが、拓にとってはそんな事はどうでもいい。
問題なのは、少女の真っ赤に染める血が全て少女自身の物ではないと言う事だ。
何故そんな事が言えるのかというと、彼女の身体に傷が無かったからだ。
少女を染める血は誰かの血。そして少女の手には気絶してもなお手放さない凶器(刀)。この血が誰ので、彼女が何をどうして付いたのかはどんなに馬鹿な人間でも分かる。拓だって理解している。
だが、理解していても拓は何故か恐怖を抱かなかったし、血に対して何の嫌悪感も無かった。
それどころか拓は血まみれになっている少女を見て、何故か懐かしい気持ちになっていた。
何が懐かしいのかは拓本人にも分からないが、漠然と懐かしいと感じていた。
「んっ……」
今まで静かに眠っていた少女が不意に呻いて、長く透き通った睫毛が揺れる。そして少女の目が開かれ、様子を伺っていた拓と眼が合った。
彼女の瞳は硝子細工のように澄んでいて綺麗であり、その眼に見つめれれて、拓の鼓動が否応無しに跳ねて、何も喋れなくなる。緊張しているのだ。
「あ、そ、その……」
何かを言おうとして必死に言葉を探していた拓よりも銀髪の少女が先に一言だけ簡潔に呟いた。
「変態」
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