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――深い、闇だった。
大人の目には、たいした問題ではないと、そう映るかもしれない。
だが、多感な時期に受けた心の傷は、きっと幸せな自分に浸っても忘れられない。
彼女自身がそうだから……
流風は未だに、時々夢にみる。
『永澤 亜沙美(ナガサワ アサミ)』に階段から突き堕とされた、あの瞬間の夢を。
事の発端は3年前――
当時野球部を任されていた30代の監督が、あろう事か女子マネージャーに暴行を加えようとしたのだ。
不幸中の幸い、それは未遂に終わったが、相当のショックを受けた女子マネージャーは学校を辞めてしまった。
そのマネージャーには交際していた野球部員がおり、彼女に、突然学校を辞めた理由を問い質した。
真相を知った野球部員は我を忘れ、監督に暴力を振るってしまう。
確かに、理由はどうあれ暴力に訴えるやり方は正義ではない。
だが、そこまで部員を追い詰めた監督の悪行こそ、許されるべきものではないのだ。
「……その部員は……
どうなったんですか……?」
白球を、バットを握る大切な手を凶器に変えなければならなかった部員の心情を思うと、泣けて来る流風。
紺野はため息を吐き、話を続けた。
猥褻行為は親告罪、暴行は未遂だったという事もあり、結局、マネージャーは泣き寝入り。
恋人だった野球部員も、彼女の名誉のため監督暴行の理由を語らなかった。
結果、野球部員は退学処分。
それを知ったマネージャーがほかの野球部員に真実を打ち明けなければ、監督の卑劣な行為は闇に葬られるところだった。
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