それは、好機か危機か

4/9
3417人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
  「……募集は、かけてみたん  ですけど…… 野球部の監督の  件を打診すると、どうも皆さ  ん及び腰にならはるんですわ。  まあ、無理もないんですが  ねえ……」 「紺野理事長」 お喋りが過ぎる紺野を緩くたしなめ、再び会長が引き継いだ。 「長いこと、こうして相談に  来られましてね。  こちらとしては、人事面に  干渉はしないと何度も申し  上げたのですが……  戦後すぐ加盟してくださった  洛西学園の野球部が失くなっ  てしまうのは、忍びないもの  がありましてね。  方々に当たってみたんですよ。  そうしたら、湘南高校の飯泉  監督―― 彼が、あなたのこと  を紹介してくれたんです」 「飯泉監督が?」 流風が驚くのも当然だった。 高野連から電話があった時、流風はまっ先に恩師に相談を持ちかけたのだから。 その時、彼は核心には触れず、ただ話を聴いて来い、とだけ云った。 飯泉らしい――と云ってしまえばそれまでなのだが…… 流風はふっと、肩の力が抜けた気がした。 「あなたが、高校野球の監督を  目指していると聴いて、私は  鳥肌が立ちましたよ。  あの夏を、思い出しましてね」 5年前――夏の甲子園大会決勝、“湘南高校”対“平晏高校”延長15回の激闘…… まさに、球史に残る一戦であった。 以降、女子選手の公式戦出場の記録はない。 だが、確実に女子選手は増えている。 流風のように、聖地に立ちたいと各地で汗を流している事だろう。 「自分たちで決めておいて、後  悔したこともあったんですよ。  女子選手の甲子園出場を認め  るなんて…… 早まった真似を  してしまった、と」 実際、苦情の電話や手紙が多く寄せられた。 マスコミに酷評された事もあった。 だが―― 「あなたのお蔭で、我々は救わ  れた。 あなたが証明して  くれたんですから。  女子選手でも、甲子園で闘え  るのだと」 「…………」 逸れてしまった話を戻す前に、会長はぬるくなったお茶で口唇を湿らせた。  
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!