それは、好機か危機か

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  「あなたなら…… あなたになら  洛西学園野球部を救える――  私は、そう思ったのです」 過度な期待は、いつだって重い。 流風は、二・三度小さく頭を振り、会長をみつめた。 「……“危機的状況”という  のは、具体的にはどういった  ことなんですか?」 訊ねてはみたが、大学を卒業したばかりの、経験も何もない自分に監督就任の打診をするなんて、よほどの事だ。 流風は、湯呑に手を伸ばし、渇いた喉を潤した。 「……やはり、お知りになり  たいですよね……」 会長と紺野は互いに顔を見合わせ、同時にため息を吐く。 話しても隠しても断られる―― そう思ったのだろう。 だが、流風の口から飛び出したのは意外な言葉だった。 「お引き受けするからには、  逃げ道を持ちたくないんです」 「え……?」 「後から、色々と耳に入った時、  聴いてなかったって……  それを言い訳にして逃げ出し  てしまうかもしれない。  そうならないと…… 今の  あたしには断言できません。  ですから――」 「……判りました」 本当に、彼女なら洛西学園野球部を救えるかもしれない。 紺野は、一縷の望みにすべてを懸け、ゆっくりと話し始めた。  
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