それは、好機か危機か

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  「そこで、きちんと解決してい  ればよかったんですがね……」 何が何でも学校の名誉――いや、自分の立場を護りたかった校長は、生徒たちの告発を揉み消してしまった。 監督の猥褻行為が事実であろうとなかろうと、野球部員が暴力事件を起こした事に代わりはない。 そちらを隠蔽してやったお蔭で地区予選に参加できたのだから感謝すべきだと、校長はそんな風に云ったのだ。 それだけではない。 その訴えは、監督に一方的な想いを寄せる女子マネージャーの捏造ではないかと、そんな事まで云い捨てた。 そして校長は、証拠もないのに騒ぎ立てるなら、名誉毀損で法的措置を取る、困るのは女子マネージャーの方だ――と、冷たく放ったのだ。 当然、監督を殴った野球部員の退学が取り消される事はなく、監督は異動という形のみで、表立った処分は下されなかった。 「……仲間を庇えなかった自分  たちを許せないのと同時に、  彼らは学校を、大人を許せな  かったんでしょうなあ……  その一件直後の公式戦、わざ  とコールド負けしよったん  ですよ」 「……わざと?」 「当時の野球部と対戦相手の  実力から鑑みても、そうとし  か考えられませんでした。  それで、その時の監督が責め  たんですわ。“なんで、わざ  と負けたんや"って。  そうしたら、彼らなんて応え  たと思います?」 紺野は、理事長として生徒の心を護れなかった己を悔いるよう、堅く拳を握っていた。 「……自分らがわざと負けたと  いう“証拠”はない――  後からその話を聴いた時は、  せつなかったですわ……」  
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