それは、好機か危機か

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  それから監督は自信を失い、程なく退任してしまった。 その後も、新しい監督が来るたびに様々な問題を起こし続けた洛西学園野球部。 彼らが狡獪だったのは、マスコミに取り上げられぬ程度、だが、単なる嫌がらせの類ではない行動を起こした事だ。 そうしているうちに、洛西学園野球部の監督を引き受けてくれる人材はいなくなってしまった。 当事者が卒業すれば、事態も好転すると思われた。 だが、沁みついた悪しき慣習は完全には拭い切れず―― そしてまた、問題が起きた。 やっとの思いで見つけた新しい監督が、今度は部員に暴力を振るったのだ。 40代の監督で、家庭内のストレスを晴らすために何かと理由をつけ、部員を殴っていたらしい。 色々ある野球部だと知った上で就任したその監督は、少々の事でクビにはならないと踏んでいたのだろう。 実際、前の一件の責任を逃れた校長は、新しい監督の暴力に気づかないふりをした。 部員も、自校の野球部の監督を務めてくれる人間はおいそれと見つからない事を知っていた。 だから、我慢したのだ。 理不尽な理由で殴られ、意味もなく蹴られても―― 部員たちは、雪の下で春を待つ蕗の薹(フキノトウ)のように、じっと耐えていたのだ。 監督がいなければ、公式戦参加も厳しく、何より野球部の存続自体、危ぶまれるのだから。 「どうして…… どうしてもっと  早く助けてあげなかったん  ですかっ!」 第三者である自分が責めるのはお門違いだと、充分承知していても……それでも、流風は譲れなかった。 どうしても、譲れなかったのだ。  
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