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まるで、ふたりの距離を思わせるような時間が流れる。
声だけですべてを伝えるのは難しい。
だから電話は苦手だと、傀藤は口唇を噛む。
だが、愛する人を哀しませている現状を打破するには、メールではなく電話に頼るよりほかなかった。
「「……なんやろな……
あのプロポーズは、不純って
いうか…… ネタバレになる
けど、あれはおまえを励ます
つもりというか……」」
彼にはめずらしく、歯切れの悪い台詞――流風は呼吸の音さえ立てぬよう、耳を澄ませる。
「「――あぁーっ……
とにかく、あかんねん!」」
縺れる言葉がもどかしかったのだろう。
傀藤は小さく叫び、大きなため息を吐いた。
「「オレの気が済まへんねん。
ええか? 甲子園に行けても、
行けへんでも、オレは――
……とにかく、今年のオフに
ケリつける。 せやから……
明日の決勝戦、おまえらしく
闘え。 悔いだけは……
残すな」」
通話は、そこで跡絶えた。
いつもは虚しく響く無機質な音も、今日は明るい。
不器用な傀藤が、未来ある言葉をくれたから――……
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