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『明日の決勝は、気もちのええ
試合をしましょう』
――江嶋の言葉通り、両雄を待つ球場は今までの暗色が嘘のように透明だった。
風が、空気が違う。
それは、洛西学園ナインもはじめて愛でる景色だったのだろう。
彼らは、五感のすべてで美しい戦場を感じていた。
まるで初戦のような緊張感と、決勝独特の緊迫感が渦を巻くグラウンドに、鬨(トキ)の声が響く。
泣いても笑っても、これが最後。
最後……
吹き抜ける蒼い風が呼び起こす回想が、流風の心を埋め尽くす。
そこから湧き上がる“自信”なのか――流風には、頭上の空に繋がる夢の風景しか見えなかった。
1回表、先攻を取った洛西学園ナインは、守備に散る平晏ナインの足音を感じながら円陣を組んでいた。
このメンバーで円陣を組むのは、今日が最後かもしれない――
そんな感傷は、今の洛西学園ナインにはない。
自分たちには次がある。
甲子園という、最高の舞台が。
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