戻れぬ道

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  今年の桜は、いつもより色濃い気がした。 それは、自分が少しだけ“大人”になったからだろうか…… 流風は、千年の都・京都の空気を胸一杯に吸い込んだ。 こんなに早く、新たな夢の扉が開かれるとは思わなかった。 心構えなど、正直云って持っていない。 あるのは、選手時代と変わらぬ情熱。 洛西学園の門を前に、流風は胸を弾ませていた。 「――おまえら、聴いたか?」 雑然とした狭い空間―― ここ、洛西学園野球部の部室は、ある話題で持ち切りだった。 「ああ、アレやろ?  新しい監督が来るて、ハゲが  云うとったわ」 「面倒やな。 監督なんかおれ  へんでも、自由気ままにやれ  たらええのに」 「なあ、リョウ、今度の監督は  どのくらい持つやろか?」 それはいつものスタイルなのか、Pタイルの床に直接座り、漆喰の壁にもたれ頭を垂れる『リョウ』と呼ばれた少年は、話を振ってきた部員を冷めた眼差しで見据える。 「“監督"―― そう呼ぶなて  云うてるやん。 “クソ野郎"――それで充分や」 そして、眼差し以上に冷めた口調で云った。 「そうそう、その“クソ野郎"、  どんなヤツやと思う?」 再び、話を振る部員。 「――別に。 扱いやすいヤツ  やったら、なんでもええわ」 そう応えたきり、リョウはまた深く頭を沈めた。  
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