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だが、いざとなると辞めるに辞められなかった。
野球が楽しい、とは思えなかった坂巻だったが、途中で逃げ出す事に云い知れぬ敗北感と罪悪感を憶えたのだ。
義務――大雑把に云えばそんな感じだ。
一度引き受けてしまった義務、
拘わりを持ってしまった義務。
それとて、責任感が強い――格好よく表現すればそうだが、もしかしたらその根底にあるものは、自分を誘ってくれたお兄さんに対する無機質な義理なのかもしれなかった。
軽い反撥をみせる一塁ベースの上で、坂巻は眩しい空を仰いだ。
そしてすぐ、渇いた視線を再びベンチへと送る。
「――――……」
そのわずかな時間の中で、坂巻は自分の間違いに気づいた。
辞める機会は、いくらでも転がっていたはずだ。
中学に上がる時、
高校に入学する時……
それでも、坂巻は野球を手放さなかった。
その理由は、彼自身の中でずっと謎のままだったが……碧空の下でやっと、見つける事ができた。
彼女――『蒼真 流風』に出逢うためだけではない。
最高の仲間と出逢うために、至上の夢をみるために、自分は野球を続けて来たのだ――と。
「……行こうで、甲子園……」
静かに、紡ぐ坂巻。
その熱い想いは、彼女に似た軽やかな風に融けた。
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