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先発は遼介――
そう告げられる事は、皆、何となく判っていた。
特に彼――遼介に代わり3番を任された八尋は、誰よりも強く感じていたに違いない。
いつもより早く立つ事になった打席に足を運びながら、八尋は小さく口角を上げた。
自分が監督なら、決勝のマウンドに遼介を上げるという大博打は打たない。
それこそ綺麗事で、青臭い事この上ない感情論だからだ。
少し前の自分なら、流風の胸ぐらにつかみかかってでも己の意見を押しつけただろう。
決勝のマウンドを預かれるのは自分しかいない――と。
だが、今は違う。
流風の青臭さがもどかしく、それでいてたまらなく心地よいのだ。
そして――ただもどかしい訳ではなく、流風の采配はイケるのではないか、という期待を持たせてくれる気もしていた。
不純な動機で野球を続ける自分に、美しい夢を教えてくれた流風……そんな彼女に、八尋はいつしか尊敬の念を抱いていたのだった。
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