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だが――遼介の気概は、見事に空回りしてしまう。
“楔”となるはずだった八尋からの贈物(ギフト)は、その意義を主張する暇もなく――
立ち上がり、制球の乱れた遼介は、ふたつの四球とヒットですぐに同点に追いつかれてしまった。
ピンチは続いたが、意地の三振と味方の好守に助けられ、2点で平晏の攻撃を食い止めた遼介。
だが、ベンチへ戻る足取りは、明らかに重そうだった。
「“すまん”とか、試合中に
云うんはナシですよ?」
ぬるいベンチに座れず、ややうつむき気味に立つ遼介の肩越しに、外野から遅れて戻った八尋がため息雑じりに声をかけた。
「先輩が4・5点取られるんは
想定の範囲内ですから」
毒の中にも、激励の音が滲む言葉だった。
皆、誰よりも悔しい思いをしているであろう八尋の態度に、目を丸くする。
だが、遼介だけは口許を緩め、その表情に生気を取り戻した。
「自信持って投げてください。
取られたら取り返しますから」
遼介と八尋――
紆余曲折を経て、同じポジションを分かつふたりの心は自然と歩み寄っていた。
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