煌めきの向こう側

15/31
前へ
/500ページ
次へ
  だが――遼介の気概は、見事に空回りしてしまう。 “楔”となるはずだった八尋からの贈物(ギフト)は、その意義を主張する暇もなく―― 立ち上がり、制球の乱れた遼介は、ふたつの四球とヒットですぐに同点に追いつかれてしまった。 ピンチは続いたが、意地の三振と味方の好守に助けられ、2点で平晏の攻撃を食い止めた遼介。 だが、ベンチへ戻る足取りは、明らかに重そうだった。 「“すまん”とか、試合中に  云うんはナシですよ?」 ぬるいベンチに座れず、ややうつむき気味に立つ遼介の肩越しに、外野から遅れて戻った八尋がため息雑じりに声をかけた。 「先輩が4・5点取られるんは  想定の範囲内ですから」 毒の中にも、激励の音が滲む言葉だった。 皆、誰よりも悔しい思いをしているであろう八尋の態度に、目を丸くする。 だが、遼介だけは口許を緩め、その表情に生気を取り戻した。 「自信持って投げてください。  取られたら取り返しますから」 遼介と八尋―― 紆余曲折を経て、同じポジションを分かつふたりの心は自然と歩み寄っていた。  
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3418人が本棚に入れています
本棚に追加