煌めきの向こう側

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  打たれたら、自分がマウンドを引き受ける―― そう云わなかった八尋を、流風は心で抱きしめた。 人は変われる。 善い方へも必ず。 その美しい現実を、愛しい選手たちが教えてくれたのだ。 根底にあるものは“夢"、そして“野球"―― 何と素晴らしい世界だろう。 得難い青春の日々を送れる彼らの幸せはいかばかりか…… 「勝って笑おう!  勝って…… 勝って泣こう!」 鼻を、喉を刺激する感情を抑え、発破をかける流風。 勝利に飢えた彼女を知る選手たちは、強く思った。 我らが監督・流風に、甲子園への切符を贈りたい――と。 2回は、初回の攻防が嘘のように両者無得点で終了。 膠着(コウチャク)への入口かと思われたが―― 渾沌は再び、3回に訪れた。 3回表――この回先頭の9番打者・杉浦が平凡な外野フライに打ち取られ、打順は1番・茅に戻る。 決められたボディーランゲージではない。 だが、流風には手に取るように判る。 それは、初回と同じセーフティーバントで攻めるという、茅の断言だった。  
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