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失敗したら責任を取る――
新人監督の利点は、そんなマイナス思考を抱かないところにあるのかもしれない。
流風は、茅の“断言”に乗った。
彼女自身よい策だと思ったし、元より、選手の自主性を否定するつもりも流風にはない。
譬えばもし、このやり取りが終盤の事であったとしても、流風は同様に茅を支持しただろう。
それは決して“丸投げ”という事ではなく――心から、流風が選手を信頼している証だった。
何より、信頼は心地よい感覚と共に、気概を湛えた力を生む。
初回に失敗したセーフティーバントを再び仕掛けて来る事はないだろうとの裏をかけた事もそうだが、流風の期待に応えたいという茅の執念が実を結ぶ。
托したバットが絶妙に打球を殺し、茅は一塁を勝ち取った。
気魄の走塁でつかんだチャンス、塁上で憚りなく拳を突き上げる茅に、ベンチから誰よりも大きな拍手を贈る流風。
受け止めた茅も、ほかの選手も、あらためて感じた。
焼けつく陽射しの下、グラウンドに立っていなくても……監督はいつも自分たちと共に闘っているのだ――と。
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