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始業式前日だが、部活動が盛んな校風という事もあり、学園内は賑やかだった。
化粧っ気もなく、どちらかと云えば童顔である流風は、見様によってはここの生徒でも通る。
まだ少し肌寒い風が頬を撫でる中、流風は懐かしい匂いに誘われ、野球部のグラウンドへと足を向けた。
「――あれ?」
思わず、流風の口から独り言がこぼれた。
決して、荒れ果てている訳ではないのだが……閑散としたグラウンドからは、人の気配は元より、人がいた気配すら感じられなかった。
監督が不在でも、活動は続けられていると聴いていた流風は、小さく首を傾げ、グラウンドへの入口を探した。
錆びたフェンス、
しばらく、均した跡のない内野の土――
そうだ。
決して荒れ果てているという訳ではないのだが……
「……かわいそうに……」
グラウンドが死んでいる――
流風には、そんな風に見えた。
探し当てたトンボの先には白く渇いた土が付着しており、グラウンドを均すたび、それは末期の痂(カサブタ)のように剥がれ落ちた。
その白土と冷たい黒土を融合させ、優しく撫でる。
「大丈夫だからね」
つぶやいた台詞はグラウンドへ向けてのものか、それとも、まだ見ぬ選手たちに向けたものか――
その手を止め、ふわりと空を仰いだ流風の瞳に、柔らかな春の陽射しが降り注いだ。
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