煌めきの向こう側

19/31
前へ
/500ページ
次へ
  ――八尋は、自分が3番に据えられた理由をはっきりと理解していた。 マウンドを遼介に譲った事に対する、水飴のように甘い監督なりの配慮――ではない。 本気で勝ちたい、勝てると踏んでの起用なのだ。 7番を打っていた時から、チャンスに強かった八尋。 それは、彼の性質が大きく反映されている。 その事を、監督は冷静に把握し、こうして形として表したのだ。 大人を“尊敬”する事など、そんな感情が自分の中に存在するなど、思ってもいなかった八尋。 甘く、どこかほろ苦い感覚に痺れる頭を軽く叩き、八尋はグリップを握りしめる。 2アウト二塁、ここで欲しいのは―― 八尋は、素速いテイクバックから気魄と共にバットを送り出す。 得意の外角、逃げるような変化球を弾き返した八尋は、自身の中ではじめて祈った。 どこでもよい、抜けてくれ――と。  
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3418人が本棚に入れています
本棚に追加