戻れぬ道

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  「――なんか、聴こえへん?」 先ほど、部室内に話題を振り撒いた部員『坂巻 淳也(サカマキ ジュンヤ)』の冴えた耳が、かすかな異変を捉えた。 「そぉかあ?」 鼓膜が何も感じなかった別の部員、『千樹 優(センジュ マサル)』が、首を傾げながら建て付けの悪い窓を開ける。 「…………ほんまや。  なんか聴こえる。  ――グラウンドの方からや」 遮るもののない空間に晒した千樹の耳も、坂巻と同じ“音”を捕まえた。 土を緩く削る、久しく聴いていない独特の音――部員たちは各々、顔を見合わせる。 「――あれか。 お荷物野球部の  グラウンドを更地にして、輝  かしい成績を残しとるテニス  部様のために新しいコートを  張る―― 的な?」 変わらず頭を垂れたまま、冗談だかどうだか判らぬ口調でつぶやくリョウ。 互いの顔をみつめていた部員たちの視線が、その頭上へ一斉に注がれた。 「――オレ、見てくるわ」 元より、そういう役回りなのだろう。 坂巻が勢いよく部室の扉を開ける。 「オレも」 その背中を追い、ほかの部員たちも我先にと部室を飛び出した。 土を掻く音が大きくなる。 「――おい、アレ……」 逸速く音の出所に気づいた坂巻が指差す方向を、一斉に見据える部員たち。 「……誰や?  あそこでなにしてんねん」 野球部のグラウンド――その中程に立つスーツ姿の女性を認めた部員たちは、皆一様に不思議顔を浮かべた。  
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