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「ああっ、掘りすぎちゃった!
ごめんねっ!」
違った意味で熱い視線を一身に集めるグラウンド内の女性・流風は、しゃがみ込み、抉れた地面を手で均す。
「――なんや、
ひとりでしゃべっとるで」
「……“春”やからな。
いろんな人がいてはるわ」
音の正体、そしてそれを繰り出す人間に気づいた部員たちだが、彼らはただ、遠巻きに眺めているだけだった。
刹那、彼らの後方で、空気を震わせる音が生まれた。
フェンスの上、弧を描くようにグラウンドへと放り込まれたのは、1本の金属バット。
驚き、振り返る部員たちに微笑んでみせたのは、バットを投げた張本人・リョウだった。
「おいっ、リョウ――」
「風向きよーし、進路よーし」
たしなめる部員の言葉を黙殺し、リョウは持っていた2本目のバットをグラウンドへ投入する。
リョウの手によって投じられた2本の金属バットは、流風の後方約2メートル、威嚇には充分すぎる位置に落下した。
立て続けに降ってきたバット。
流風は驚き、整備の手を止める。
「――――……」
しばらく、そのバットをみつめていた流風は、ゆっくりと視線を動かす。
フェンスの向こうに、野球部員らしき人影がいくつか見えた。
状況は、すぐに飲み込めた。
流風は、落下の勢いで抉れたグラウンドを丁寧に均し、2本のバットをつかむ。
そして、そのまま人影へ向けて足を運んだ。
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