戻れぬ道

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  「これ、投げたの誰?」 野球部の部員たちに逢えたらまず、挨拶と自己紹介をしようと考えていた流風だったが、思わぬ“歓迎”に感情が昴り、すっかり忘れてしまう。 「誰が投げたの?」 つい、詰問口調になってしまう流風に、冷たい瞳を湛えた少年が歩み寄った。 「オレや」 錆びたフェンスを挟み対峙する流風と少年。 「謝りなさい」 とんだ初対面になってしまったが、流風は気丈な態度で促す。 「なんでやねん。  勝手にグラウンドに入っとる  あんたが悪いんやろ?  そっちが頭下げろや」 「“あたしに"―― じゃない。  バットに謝りなさい」 凄む少年よりも腹に響く声で云い放つ流風。 部員たちには、その要求が至極滑稽に思えたのだろう。 各々顔を見合わせ、首を傾げていた。 「バットを投げていいのは、  塁に出る時だけでしょ?  ……投げるなら、ボールに  しとけばよかったのに」 「……あんた、何者?」 謝罪する気など更々ない少年は、片目を細め、ぶっきらぼうに訊ねる。 「あっ…… あたし“蒼真 流風"  です。 野球部の監督をやらせ  てもらえることになりました。  よろしくお願いします」 ようやく、大切な事を思い出した流風は、遅い挨拶を済ませた。 「それから、勝手にグラウンド  に入ってごめんなさい」 彼らとは、監督と選手――というよりも、まずは人として向き合う必要があると考えていた流風は、少年の言葉通り頭を下げて謝罪した。 部外者ならともかく、野球部の監督になる人間なら、グラウンドに入った事を詫びる必要はない。 にも拘わらず潔く頭を下げた眼前の女性の振る舞いにも驚いたが―― 「……あんたが……  新しい監督――――!?」 それより何より、部員たちはその事実に驚愕の色を隠せなかった。  
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