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「――なぁ……
“ソウマ ルカ"って、どっかで
聴いたことあらへん?」
部室に引き揚げた部員のひとりが、ぽつりともらした。
「……ああ、オレも思うた」
それが合図となり、各々が記憶の扉を抉じ開ける。
いつもの場所に落ち着き、頭を垂れるリョウも、不本意ではあるがほかの部員同様、記憶の奥底を探り始めた。
1分、2分……
異様な静寂に包まれた部室の中で、記憶との格闘を続ける部員たち。
5分ほど経った頃だろうか……
「ぅあっ!」
野球部主将の『新井 慎吾(アライ シンゴ)』が、今まで発した事もないような頓狂な声を上げた。
「思い出した……
5年前の、夏の甲子園――」
同時に、部室内に派手な音が響き、新井の声を遮断した。
驚き、動きの止まった部員たちが見たのは、いつの間にか立ち上がり、ふたつ目のパイプ椅子を蹴飛ばそうとするリョウの姿だった。
「リョウ…… すまん――……」
「別に」
“甲子園”という言葉は、彼には禁忌(タブー)だったのか――
リョウは、自分が凝固させた空気を縫い、部室を出ようとした。
刹那、
「なんかすごい音したけど……
大丈夫っ!?」
外から内から、同時に扉が開かれ、入室しようとした流風と退室しようとしたリョウが、勢いよくぶつかってしまった。
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