霜降の日

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その日、僕はバイトの帰りにレンタルビデオショップに立ち寄った。   狙い目は一年前に大きな賞を貰った、ミステリー映画。 コマーシャルを初めて見たときから、ずっと頭から離れなかったのだ。 僕は迷わず大作コーナーへと足を運び、DVDのケースから中身を抜き取りカウンターへ向かった。   小さなビデオショップは、外観と見合わぬ大きな棚をかまえていたが、客人は悲しい程に少なかった。 店員も数えるまでもない。 淡々とした流れ作業に、半ば諦めたような表情で接客をする店員ばかりがカウンターに並んでいた。   つまらないなら辞めればいい。   就職が決まっていた僕は 彼らの背景などには目もくれず 濃紺の袋を片手に 静寂のなかビデオショップを出た。
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