霜降の日

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アーケード街を歩いていると、 本屋のおばさんに声を掛けられた。 シャッターを降ろすところだったらしい。   「あらまぁ今村さん。 今お帰りなの。 ちょうどよかった。」   僕の姿を見つけるなり、分厚い紙袋を差し出して言った。   「わたしねぇ、武田さんに頼まれていた辞書があったのよ。 片付けていたら遅くなってしまうもの。 夕飯時に伺うのも気が引けるでしょう。 今村さん、届けに行ってくれないかしら。」   断る理由もなく、僕はその分厚い紙袋を受け取った。   「ありがとう、助かるわあ。 町田書店です、って言えばいいからね。」   「はい、わかりました」   武田と言ったら、地元では馴染み深い薬屋だ。 僕はお世話になったことはないが、友人が話しているのを耳にしたことがある。   「じゃあ、お願いね。」   ちょっと強引な町田さんに苦笑いしながら、僕は商店街入り口へと向かった。
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