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「雑談にしては内容が真面目な気もするけど」
「あはは、気のせい気のせい」
「絶対に気のせいじゃない……」
「話を戻すぞ。――個人が愛を捧げる対象は、何も一人だけとは限らない。逆もまた然りだ。単体から複数、複数から単体。そして単体から単体へと、向ける愛も人数も様々なんだ。いろんなものが混じり合ってる。だがどれだけ複雑なものでも、人は愛を大事にするのさ。それが、欠けてはいけないものだと、本能で分かっているからね」
「本能で?」
「ああ。愛とは感情の一つだからね。人は感情が無ければ――心が無ければ生きては行けない。心を無くした生物なんて、死んだも同然だ。お前だって、心が無くなるのは――死ぬのは嫌だろう?」
「確かに……死ぬのは、怖いな」
「そう、死とは恐怖だ。本能に刻み込まれた恐怖。だからこそ、人は心の一部である、愛を大事にする――死を回避するためにね」
「……そう思うと、愛って面倒だな。そんなややこしいものなのか」
「そう思うのなら、お前の中にある恋慕という名の感情を今すぐ消し去ってくれ」
「それとこれとは話が別だ。……なんかこれ、絶対に雑談じゃないだろ」
「雑談だよ。とりとめのない、気楽な話さ。どれだけ話したところで、お前の愛は揺るがないんだろう?」
「そりゃあな。永遠不変の想いのつもりだぜ」
「その言霊が違える事を祈ってるよ。――大分話が脱線したが、まあ、複雑なのは言葉だけだよ。実際の感情なんてのは、見た目通りに単純なものだ。現に、お前がこちらへと向ける愛情は、誰がどう見ても単純明快じゃないか」
「まあ、そうだろうな」
「だが、しかしだ。他人が見て感じたものと、お前が抱いている感情が同じだとは限らない。それに、お前が愛を向ける人間は他にもいるだろう。それが友愛なのか、敬愛なのか、はたまた恋愛なのか、その真意はお前以外に知り得ることは出来ない。結局、他人の感情を――他人の心を完全に理解することなんて、出来ないんだからな」
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