名もなき老人の詩(4)

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その一発は、天城の想像をはるかに超えていた。 両手で握っていなければ、とっくに肩が外れていたその威力は、 扉越しの至近距離で、オヤジの言う通り、二人同時に貫通して撃ち殺すまでのものだった。 牽制の為にもう一発発射しても、また二人…。 その場にいた全員、撃った天城すら震え上がっていると、 部下を盾にして生き延びた山田はすかさず、エレベーターのドアを閉じるボタンを押し、 救援を呼ぼうと片っ端から上の階を押していった。 天城は閉じたドアに向けてもまた一発発砲。 弾は硬い何重にも重なったドアを貫通して中まで飛んだが、 昇り際、また一人部下を撃ち殺すまでにしか至らなかった。 詰まらせていた息を深く吐き、ドアに背をもたれてへたりこみながら、 「…カンベンしてくれよ、オヤジ…。こんなモン持たせやがって…」 天城は、この銃の言い知れぬ恐ろしさを身を持って知り、 そんな風に愚痴をこぼした。
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