名もなき老人の詩(4)

20/36
前へ
/819ページ
次へ
建物をぐるぐる周り、つかず離れずの距離を保ちながら、小津は片手でキーボードを叩いていた。 後ろから追突した瞬間から、既に小津は、石井の車にある物を取り付けていたのである。 しばらくして一度止まり、サングラスをかけたまま降りてみせると、 「?…ったく、世話焼かせやがって…」 そう言いながらドアを開け、石井も降りようとした時だった。 あの時の黒い球体が車体の下からコロコロ転がり、 それは球体からクモの形に変形すると、石井の背中に飛びついた。 「!?…」 背中に違和感を感じた時には、既に遅かった。 カサカサよじ登り、首筋の動脈に爪が刺さると、その先端から高い濃度の麻酔が流れ出し…。 小津に近付こうとするも、やがて石井は意識を無くして、その場に倒れ込んだ。 「…マダム、ご注文、上がりました」
/819ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3086人が本棚に入れています
本棚に追加