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見たくない。
俺はそんなことを認めないぞ。
考えろ、考えるんだ俺。
……確か昨日、俺は硬い床の上で寝たはずだ。
何故、今、俺は布団の中に……。
「うぅ……抱きしめてくれないなら……」
「ストップ!」
危ない、何かしてくるところだった。
危険だ。
この女、凄く危険だ。
「なんだぁ、起きてたんですね」
妙に甘えるような声。
猫なで声と言うよりな、まったりとした口調が耳をくすぐる。
あぁ、そんな声を出されたら、男心が……。
「何故だ?」
揺れることがあるわけなかろう!
こう見えても鉄壁の貞操、柳杖寺蛍の名は伊達や酔狂の類いでは無いのだよ。
「何がですかぁ?」
「何故、俺は布団にいる。昨日は床で寝たはずだが?」
「妻ですから。夫が床で寝るのを黙って見過ごすわけにはいきませんよ。だから、此処まで布団を引っ張って来たんです」
……寝床移動。
俺の部屋が存在価値を失った瞬間だった。
ちくしょう。
狭くても、我が部屋なんだぞ!
「……私、決めたんです」
すると彼女、少し落ち着いた声で話し始めた。
先程までのふざけた……と言うとニュアンスに違いが出るが、甘えた声では無い、真面目な口調。
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