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『魔王』
それはゲーム、ファンタジー小説と言った空想的、または創造的な世界に登場する魔を従える王。
偏に魔王と言えども、その姿形は様々。人形を象るモノ、猛獣の容貌を持つモノ、はたまたドラゴン、悪魔と言った現実に存在しえない架空の生物にその形を収めている。
その魔王らに共通するであろう事は、絶対的かつ強大な力を秘め、数多の魔物を率いて混沌の世界を支配し、迫り来る勇者達を屠る存在であると言う事。
まぁ、物語の最終目的、所謂ラスボスと言う奴である。
しかし、その魔王と言えども結局は、勇敢な勇者達を前に敗れ去るわけだが。
そんな地に足が着いていないような、どこか飛躍した夢溢れるヒーローストーリーの可哀相な悪役。その役目を押し付けられたと言っても過言でないだろう存在。とは言っても、大体の魔王は邪悪な理念の元、人々を苦しめているからこそ勇者達に成敗されてしまうのだろうが。
しかし、この現代。魔王の存在は元より、魔法が乱れ飛び、煌めく剣が軽快な音を上げ打ち合わせられるなんて事はない。
かの有名な第二次世界大戦後、日本は急激な経済成長を遂げた事は皆誰しもがご存知なわけだが。 その大戦以降、戦争だの大規模な軍事紛争などとは無関係と言って遜色ないほど、至って平和な世の中が続いている。最近になっては物騒な事件が後を絶たないが、全世界的に見れば平和な国である事に変わりはない。
世の中が平和なのは良いことだ。文句など微塵も、とまでは言えないが、ほのぼのとした日常は気安いものだ。
そんな平和ボケし始めているこの現実から浮き世離れしたファンタジー世界に瞳を輝かせ、胸をときめかせる女の子。
怠惰な日常に辟易した彼女はファンタジーと名の付く物に目が無い。
そんな一般的な女の子とは趣味や好みが大分異なった瀬川美依(せがわ みより)とは幼なじみに当たる屑桐陸(くずきり りく)。
もとい、俺は只今満面の笑顔を張り付けた美依を目の前にして、とてつもない儀式、常識的に考えて一般人が一生の内にやるかやらないか、――いや、ほとんどの人々が実行する事は元より、その場面をお目に掛かる事すら無いであろう――
――――魔王を召喚する儀式を始めようとしていた――――
何故こんな事態になってしまったか――――
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