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つい最近の事、爺ちゃんが他界した。
元来酒飲みの性分が祟った爺ちゃんは肝臓がイカレていたらしく、入院して直ぐにぽっくりと死んだ。あの爺ちゃんの事だ。しぶとく長らえるかな、と思案していたけれど、所詮人間、病に抗う事は出来なかった。
悲しくないわけじゃなかったが、涙を零す事はなかった俺は棺の中で穏やかな顔をして静かに眠る爺ちゃんをただ茫然と眺め、側に佇んでいた。
その俺の隣で、誰よりも涙を流していたのは他でもない美依。
俺よりも可愛がっていたであろう美依に、これだけ別れを惜しまれているんだ、爺ちゃんもあの世でさぞご満悦だろう。
幼い頃、近所に暮らしていた美依はしょっちゅう俺の実家に顔を出していた。
俺の部屋の前を足早に通り過ぎた美依の目的地は我が家の偉大な酒飲みの爺ちゃんの膝の上。
美依が空想世界に想いを馳せる不思議少女になってしまった原因はこれだ。
爺ちゃんが話す剣と魔法の世界。そこで繰り広げられる魔王と勇者達の闘い。
生き生きとした表情で語る爺ちゃんの話を美依は嬉々とした様子でただ夢中になって聞いていた。
爺ちゃんが身振り手振りで話すのを見て、足をパタパタと振り喜んでいた美依。
そんな楽しそうな様子で話す年寄りと幼なじみに俺は複雑な心境で、障子越しに耳を傾けていた。
ほのかに苦い過去の思い出。
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