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お袋の話はこうだった。
遺産をたんまりと溜め込んでいた訳でもない爺ちゃんの遺品は、ほとんどが訳の解らないものばかりだったらしい。
親類一同としても、それは処分する以外にどうしようもないもので、爺ちゃんの遺産は悪く言えばゴミ、良く言ってもガラクタ程度の差異しかなかった。
そんな訳で遺産と思わしきガラクタ一同は処分される方向で話が進んでいたらしい。
しかし、入院して直ぐの時期。爺ちゃんが病院のベットでお袋にこうぼやいたらしい。
自分の遺産は美依ちゃんと淕に分け与えてやってくれんか、と。
はたして遺産と呼べる代物かどうなのかは別として、爺ちゃんの遺産の相続人として孫の名前より先に美依の名前が出て来る辺り、相当美依の事を可愛がっていたのだろう。傍から見ても、それは明らかではあったが。
まぁ、それはそれとして置いておこう。孫としては相変わらず複雑な心境だが、幼い頃から続いた事だ。何、たいしたことない。慣れた。
そんな爺ちゃんの意向もあり、処分するのは些か酷な事だと言うことで。お袋曰、「もうアンタのマンションに荷物送っといたから」だそうだ。
お仕事が早い事で。
俺としては迷惑極まりない話ではある。実家に暮らしていた時に何度か美依と一緒に爺ちゃんのガラクタを漁ったりしていたが、俺の興味をそそる物はなさそうだった。美依は目を輝かせていたわけだが、どうにも昔の俺は夢を持てない現実主義者だったようだ。尤もそれは今も変わってはいないのだが。
電話を切った後、美依に爺ちゃんの遺品の事を伝えてやるとゴム毬が弾むような笑顔を見せて喜んでいた。
そして先程の涙は何処へやら、
「よしっ、おじいちゃんの荷物届いたら淕のマンション遊びに行くからねっ」
そう元気に言葉を紡ぎ、電車の座席と反対向きに膝を着き、窓から夕日に向かい鼻歌を口ずさみ始める。
俺はそんな物好きな幼なじみに聞こえぬよう、小さくため息をついた。
橙色に染まった世界。地平線に沈み行く明るい初夏の太陽はこの夏巻き起こされる波乱に満ちた日常の始まりを告げるかのようにぎらぎらと輝いていた。
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