魔王

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 携帯を閉じてソファーに投げた俺は特にする事もなく、くそ重い段ボール箱を眺めていた。  美依が来るのは明日だけど、先に少しばかり見といても構わないだろう。  きちんと封がなされた段ボールの包みを剥がし、中をこじ開けてみる。  その途端、中からはもわりと埃っぽい臭いが舞い上がり、開けたのをもろに後悔させれられる羽目になった。  見る限り段ボール箱の中にぎっしり入っているのは古臭い本やわけの解らない道具ばかり。  マジでガラクタだ、これ――  とりあえず適当に一冊本を手に取る。  黒塗りの表紙が劣化して所々破けている本。カビでも生えているのだろうか、材質は布であろう表紙は触り心地が気持ち悪い。 重量は百科事典並、両手で持つのがやっとだ。  ざっと眺めると、表紙には金色の文字で、『Grimoire』とだけ表記されている。 「……ぐり……も……あー? なんだこれ?」  わけが解らぬままパラパラとページを捲る。  どうやら内容は英語で書かれているようで、その気になれば読めない事もなさそうだ。読む気は更々無いが。  ぺらぺらと興味なさ気にページを捲くっていた俺だったが奇妙な挿絵が成されたページで思わず手を止めた。  その挿絵には頭が三つある気味悪くグロい生物が魔法陣の中から現れている様子が描かれている。『Summon Satan from another world』と添えられた文字。 「……魔王を召喚する、ねぇ……」  話がぶっ飛び過ぎてる。有り得ない。  どうせどこかの危ない妄想野郎が書き綴ったでたらめに違いない。  著者は相当現実に嫌気がさしていたんだろうな。でなきゃこんなつらつらと膨大なページに渡って妄想を書ける筈がない。  思わずふと、身近な人物の事を心配してしまう。 「つーか、このご時世に魔王とかねぇ……あほくさっ」  段ボールの中にヘビーな本を投げ入れる。段ボール中からはあの本が何か道具を潰したらしき低い物音が聞こえてきたが気にしない。  悪いな、爺ちゃん。やっぱり俺にはガラクタにしか見えねーや。  お空に召された爺ちゃんを思い浮かべ感慨に耽っていると、ソファーの上の携帯が着信音を響かせた。  相手は美依ではなく、大学の友人から。  美依のアドレスを教えてくれだそうだ。だが断る。  めんどくさいので無視を決め込み、シャワーでも浴びて寝ようと立ち上がり、そのまま部屋を後にした。
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