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それを見た爺さんは、
(これで俺もこぶなしだ!)
と内心ほくそ笑みますが、その場へ、周りの鬼達より一回り大柄な鬼が現れます。
その鬼は、情熱的な真っ赤なボディに均整の取れたしなやかな肉体を持っており、髪はサラサラ茶髪のセミロング。鼻高く涼やかな目を持ち笑みを崩さない、一目で何か勘違いした奴かこのグループのリーダーだと分かりました。
「君のダンスは素晴しいが、私のダンスも負けてはいない。みたまへ!」
リーダーらしき鬼はそう言って指を鳴らすと、先ほどの軽快な音楽と打って変わって、今度はねっとりとした情熱的な曲が流れはじめます。リーダーっぽい鬼は無駄に恍惚の表情を浮かべながら見事にその曲に調和した情熱的で、可憐かつ悩ましげな、そして少しの哀愁を漂わせるダンスを踊ります。それは爺さんを驚かせ、その実力を認めさせるのに十分な、とても素晴らしい、或いは気持ちの悪いダンスでした。
二人は朝まで踊り続けますが優劣は付かず、互いの実力を認め合い、また勝負する事を誓って別れました。さわやかな勝負の後、爺さんはこぶの事など頭の片隅にもありませんでした。むしろこぶの振り具合をダンスに利用したふしさえありました。
山を降りた爺さんは、こぶの取れた爺さんに、大丈夫だったか、と声を掛けられますが、
「最高だったぜ」
とニヤリと笑って拳を突き出しただけでした。
その後こぶの取れた爺さんは、何不自由のない生活に満足して日々を過ごしました。
そして、隣の爺さんも、こぶの取れない事など気にもせず、三日と空けずに山へ登り、鬼とのダンスバトルを楽しみましたとさ。
おしまい おしまい
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