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そして桃太郎とその家来達は、島中をくまなく探し回り、村人達から奪ったものか、それとも元々鬼達の物であったのかなどは一向に頓着せず、見つけた金銀財宝を残らず船に積み込むと島を後にしました。
凶悪な鬼共と山ほどの財宝が蓄えられた鬼ヶ島は、今では惨たらしく殺された鬼達の亡骸が、自らの流した血液に染められた大地に転がっているだけとなったのです……。
海辺の村は歓喜に沸き返るはずでした。
今までずっと鬼の脅威に一番に晒され続けてきたのですから当然です。現に、ついしがた送り出した船が無傷で帰ってくるのを確認すると、村人達は歓声を上げました。ところが船が岸に近づき、そこに乗っているのが鬼の返り血を体中に浴びた若者である事が分かると、村人達は一斉に口を閉じてしまいます。更に桃太郎が陸に上がり、その体を間近に見る事が出来るようになると、島での凄惨な戦いが想像出来、しかし自らは傷一つ負っておらず、口元には薄ら笑いを浮かべているこの若者こそ恐るべき存在ではないかと言う思いさえ抱くようになっていました。
そんな事を思われているとは露知らない桃太郎は、村人達のそっけない態度に苛立ち、鬼を退治し、宝を取り戻したのが嬉しくないのか、と不満を言います。村人達は、その言葉に震え上がり、けれど精一杯の愛想笑いをつくり桃太郎を口々に誉めそやします。するととたんに桃太郎は気分を良くし、血にまみれた服を捨て、体を綺麗に洗い流し、村人に貰った新品の綺麗な服に着替えると、意気揚々と自分の村へ帰っていきました。
そんな事は知らない村では桃太郎は英雄です。皆からは喝采を浴び、お爺さんもお婆さんも泣いて息子の帰りを喜びました。
近隣の村々に財宝を返して周りはしましたが、それでもかなりの財宝が手元に残り、それを村人達で山分けしたお陰で、桃太郎の村はとてつもなく裕福になりました。
それから桃太郎は家族三人で穏やかな時を過ごしたのかというと、そうではありません。
この世にはまだまだ悪い奴が沢山いる、そいつ等を退治して困っている人を助けたい、と言って帰ってきたばかりの村を後にします。お爺さんとお婆さんはその正義感を褒め、引き止めることも出来ず泣く泣く送り出しますが、桃太郎の胸中はどうだったのでしょうか……。
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