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むかしむかしある国に、新しい服が好きな王様がいました。
ある日、その王様のもとへ一人の詐欺師が布織職人だと偽ってやってきました。
詐欺師はひざまずいて恭しく礼をすると、脇に抱えていた高級そうな装飾のしてある木箱を目の前において、ゆっくりとふたを開けました。
中はからっぽです。
ところが詐欺師は、そこにあたかも布が入っているかのごとく両の手を動かし、箱から取り出して王様へ見せ付ける仕草をします。そして、これは馬鹿には決して見えない特別な布だと言い、この布を使って見た事もない服を作りましょうと言いました。
勿論これは詐欺師の嘘で、布などありません。ですがそれを嘘と見抜けない王様は、臣下達の手前見えないとは言えないので、ありもしない布を素晴らしいと褒めてしまいます。すると周りの者達も自分が馬鹿だと思われたくないので、王様に追従して布を褒めてしまいますが、それを見ていた詐欺師は面白くてたまりません。
(馬鹿には見えてしまう布だ、と言い換えてもいいだろうな)
と内心失笑ものです。ですがそんな様子は微塵も見せず、王様達の言葉にうんうんと頷き、それではいついつまでに仕立てて参りますと言うと、そそくさとその場を立ち去りました。
それから数日後、服が出来たと言って王様の元へ詐欺師がやってきました。
ですがこれは勿論嘘っぱちです。あの後、男は城を出ると一軒の宿屋に引きこもり、窓のカーテンを閉めて外から見えないようにし、宿屋の主人にも食事以外は声を掛けるなと十分注意し、飽きるまで寝て過ごしていただけなのです。
詐欺師は王様の前に出ると、また空の箱から何かを取り出すような仕種をし、この服を作るのにどう苦労しただの、このデザインがどうだだのと嘘を並べ立て、最高の出来栄えでしょうと自慢げに言いました。王様や臣下達は釣られてその服を褒め称え、臣下の一人は、王様にとても似合うでしょうとおべんちゃらまで言う始末。
しかし納得のいかない王様は、この服は馬鹿では見えぬのかと、詐欺師に確認します。はいと詐欺師が答えると、頭の良い者しか見えぬのかともう一度聞きます。はい、王様達の様な方で無ければ見えませんと詐欺師は心にも思っていない言葉を口にします。
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