●嘘をついたシンデレラ

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(私も昔なら……)  シンデレラは溜め息を吐きます。  昔なら、昼間以上に明るいお城の広間で素敵な男性と語らい、優雅に踊り、美味しいものを食べ、楽しい時間を過ごしていたんだろう。 (それが今は……)  小さく薄汚れた部屋の窓から、星空を眺めて嘆き溜め息を吐くだけしか出来ません。昔に戻れたら、お城に行けたら、と何度思ったことでしょう。でも、今ではそれも叶いません。この不幸な境遇を嘆く反面、 (私にはこれがお似合いよ)  と、日々の忙しさにかまける事で、それを甘受する気分も生まれていました。  今しがた吐いた溜め息も、お城の輝かしい舞台を思ってのことなのか、今日の仕事を終えての疲労感からきたものなのか、どちらへより強く吐きかけたものなのか自分でも判別できませんでした。  そんなとき、”コツコツ”と窓を叩く音がします。不思議に思って窓の外を覗いてみると、闇夜に溶け込んでしまうくらいの黒いローブをまとった薄気味の悪い老婆が立っていました。 「お嬢さん。一体なんで溜め息などついているのだ?」  その問いに、少し怪しみながらもシンデレラは溜め息の理由を答えます。すると老婆は、それなら私がお嬢さんをお城まで行けるようにしてあげよう、と言いました。  シンデレラが、そんな事は出来ないと疑うと、老婆はローブの中から小枝ほどの杖を取り出し、シンデレラに向かって一振り。するとまばゆい光がシンデレラを包み込み、ツギハギだらけの汚らしい服が以前父親に買ってもらった中で一番お気に入りだつた、純白のドレスに変化しました。 (うそ!?)  シンデレラは驚きます。次いで老婆は、 「スカートを上げてみなされ」  と言います。その通りにすると足には履き古したボロボロの土色の靴が。老婆が杖を振ると、今度はその靴が透き通った輝きを放つガラスの靴に変わりました。  こうなるとシンデレラは信じざるをえません。言われたとおり台所からかぼちゃを持ってくると、老婆はそれを馬車に変え、部屋を走っていたねずみをを御者に、どこからか這い出してきたトカゲを従者に変え、お城へ向かう準備を整えると、 「さあ、お城へ向かいなさい」  と、あまりのことに呆然とするシンデレラを馬車に乗せ、御者に命令して走らせます。  その去り際、 「この魔法は十二時に解けてしまうから、それまでには帰っておいで」  と注意しました。
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