●嘘をついたシンデレラ

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 そんな時、ふと王子様から視線を外すと、数人の見知った顔を見つけます。継母達でした。  継母達は、ちらちらとこちらに視線を送り、目を細め、嫌らしい笑みを浮かべては周囲の女達と何かを囁きあっています。 (しまった)  とシンデレラは思いました。いつもの汚らしい格好でないからと言って、仮面をつけているわけでも厚化粧をしているわけでもありません。もしかしたら気付かれたかもしれないと、不安がじわじわと湧き出してきます。 (気付かれていたら何を言われているか……)  家に帰ったら酷い虐めにあうかもしれない。  それ以前に、皆の憧れである王子様を独占してしまっている事について、何事かを囁かれない訳がありません。でもそれは継母達だけではありません。周りを見渡してみると、会場は小さな集まりを作り談笑していました。その中でいくつかの集団がこちらに視線を送っています。  不安に駆られたシンデレラの目には、それら全てが継母から送られていたものと同質のものに感じられてなりません。  漸く楽しいと感じられるようになった時間が、一気に崩れていくように思えました。  更にもう一つの不安がシンデレラを襲います。会場の中央に掲げられている大きな時計から低い鐘の音がなり始めたのです。はっとして時計を見ると、 (十二時……!)  老婆の言葉が頭をよぎります。もしここで魔法が解けてしまったらどうなるだろう……。 「ごめんなさい!」  王子様にあわただしく頭を下げると、踵を返して駆け出しました。  皆の視線をよそに会場を出て、出口へと続く大きく長い廊下を必死で駆けました。後ろからは王子様が何かを叫びながら追いかけてきますが、気にしている暇はありません。シンデレラは駆け、城を出た所の階段で躓いて靴が脱げてしまいました。でもシンデレラは靴を拾う事もせず馬車へ駆け込むと、御者に屋敷まで急いでと頼みました。  王子様はシンデレラに追いつけず、彼女の落としていったガラスの靴を拾い上げ、走り去る馬車を残念そうな表情で見送りました。  屋敷に辿り着く前に魔法は解け、汚らしい格好に戻ったシンデレラは路傍に投げ出され、土ぼこりにまみれてしまいます。しかしシンデレラはそれを払おうともせず、何かを諦めたような寂しげな笑顔を作ると、星月夜の下、トボトボと屋敷まで歩いて帰りました。
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