79人が本棚に入れています
本棚に追加
シンデレラに一目ぼれした王子様は、彼女の残していったガラスの靴を手がかりに、家来に命じて国中を探させます。そして、数日の後、その家来がシンデレラの屋敷にやってきました。
継母達は意気込んで、どうにかしてその靴を履こうとしますが、かかとが少し余ってしまい、履くことは出来ませんでした。
次いで、継母達の脇に控えていた、シンデレラを含む召使いの女達に、ガラスの靴を履くようにお願いします。
そんな下賎な女達がお城になど入れるわけが無い、と継母達は拒否しますが、
「王子様の命ですので」
と家来は押し切ってしまい、召使い達も恐る恐ると言った様子で靴を履こうとしますが、勿論合うはずがありません。
最後にシンデレラの番になります。シンデレラは家来の差し出した靴の前までおずおずと歩いていくと、ちらりと継母達を見ます。
(この靴を履いてしまったら……)
あの時と同じ視線を受けることになるのだろう。しかも、それはあの時の比ではないだろう。国中の女達から、黒くねっとりとして時に刺すような視線を、終生受け続けることになるのだろう。その緊張感はどれくらいのものなのか。
そもそも国中の人気を集める王子様の心を奪うことなど、私のような人間に許されて良いのだろうか。もっとふさわしい者がいるはではないのか……。
シンデレラは、あれこれと考えた末、決断します。
わざとかかとを余らせるような履き方をして、
「私には合いません」
と嘘を吐きました。
その言葉を吐いた横では、継母達が、安堵と蔑むような表情で嫌らしく笑っていましたが、その事は気にもせず、シンデレラはホッと安堵の大きな溜め息を吐きました。
それから、王子様は別の女を妻に娶り、シンデレラも別の男と結婚しました。
その男は、貧しい煙突掃除屋で、毎日灰と炭にまみれていて王子様と正反対でしたが、それでも分相応だとシンデレラは満足でした。
その結婚はあまり祝福はされませんでしたが、誰からも恨まれも嫉妬も受けませんでした。そして慎ましやかに、けれど幸せに過ごしましたとさ。
おしまい おしまい
最初のコメントを投稿しよう!