79人が本棚に入れています
本棚に追加
むかしむかしあるところに、右頬に大きなこぶのある爺さんがいました。
こぶは肩に垂れ下がるくらい大きくて何をするにも邪魔くさく、
「このこぶがなくなったら……」
と、思わない日はありませんでした。
そんなある日、爺さんがいつものように山でせっせと木を伐っていると、いきなり雨が降って気ました。
あわてた爺さんは、近くの大木にぽっかりと開いている大きな穴に逃げ込みます。
雨は一向に止みません。何をする事も出来ず、ぼぅ、と外を眺めることしか出来ない爺さんは、次第にうとうととし始め、ついには眠りこけてしまいました。
それからどれくらい経ったでしょうか、爺さんが目を覚ますと既に雨は上がっていました。
日も落ちたようで、外は真っ暗……でもありません。どこからか、ほのかに明かりが差し込んでいます。気になって目を凝らしていると、今度は軽快なリズムの音楽が聞こえてきます。それは爺さんが聞いた事もない、なんとも”ノリ”の良い曲でした。
(なんじゃろう?)
と初めは用心深く聞いているだけでしたが、生来陽気で踊り好きな爺さんは堪らなくなり、穴から飛び出し、音楽のする方へ踊り歩いていきました。
「ほいっほいっほいっほい」
と、息を弾ませ、気分良く爺さんは踊り続けます。周りなど気にせず、
「ほいっほいっほいっほい」
と、笑顔で手を振り足を振り。
すると突然周りからは笑いの嵐。
その事に驚いて我に返ると、赤、青、緑など、これはおかしいだろうと思ってしまうような肌の色をしたおっさん達に囲まれていました。そのおかしいおっさん達は、どいつもこいつも大柄で、パンツ一枚のパンチパーマで、頭には可愛らしい角を”ちょこん”と乗せています。
(かみな……いや、鬼だ!)
そのかみな……いや、鬼達は、踊るのも忘れて突然迷い込んできた奇妙な客を指差し、ゲラゲラと高笑い。
そうです、爺さんは踊る事は大好きなのですが、とても下手糞だったのです。
リズムなどあったものではなく、顔の筋肉を全てらだけさせ、まるで阿呆の様な表情でただひたすらフリーダムに手足をふらふらばたつかせ、時にはあらぬ方向へ間接をグネらせるだけで、踊りと言うよりまるで呪術の儀式のようですが、その様は鬼達を楽しませるのに十分でした。
最初のコメントを投稿しよう!