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しかし、鬼達は楽しくとも爺さんは全く楽しくなくなります。そりゃ、人を取って食うとまで言われた鬼達に囲まれていては当然です。恐ろしさにぶるぶる体を振るわせ始めますが、気分を良くした鬼達は相手が人間である事には頓着せず、もっと踊れとまくし立てます。仕方なく爺さんが踊り始めると、またまた大笑い。
(どうにか抜け出せんもんかのぉ)
と、爺さんは困りますが、そんなことお構いなしに躍らされ続け、とうとう夜が明けるまで笑いは絶えることはありませんでした。
帰る際に、こんなに笑ったことは久しぶりだと鬼達は礼を言い、自分達の出来る事なら望みを叶えてやろうと言いました。
いつ食われるかと内心ビクビクしていた爺さんはそれを聞いてホッとします。そしてダメもとでこぶを取ってもらえないかと頼むと、お安い御用だと鬼達は快諾。その内の一人が爺さんのこぶを掴むと、ちょっと捻っていきなり引っ張ります。すると、
(えっ! そんなあっさり!)
と思うくらいスポン、と言う小気味良い音と共にこぶが取れてしまいます。そして、
「また来てくれなー!」
と手を振り笑顔で去っていきました。
(もう来たくないわ)
と、夜通し踊らされ続けた疲労と恐怖でそう呟いたものの、すっきりした右頬をさすりつつウッキウキで山を降りていきましたとさ。
その話を聞いて驚いたのは隣に住む爺さんです。
この爺さんも、左の頬に肩までだらしなくぶら下がるこぶが付いていたからです。しかも、都のダンス大会では何年も連続優勝したと言うダンスマスターで、それなら我こそはと意気揚々と山へ向かいます。
そして教えられたとおり大木の穴に入って夜まで待つと、どこからとも無く軽快な音楽が流れてきました。
(来た!)
と思った爺さんは穴から出てその音楽がする方へ向かいます。そして、その音楽に似合わない日本古来の伝統芸能の様な踊りを、大きな篝火を囲んで踊っている鬼達を確認すると、颯爽とその場へ飛び出し、華麗でかつ力強く、時に優しげなダンスを披露しました。
すると、先日の爺さんの時とは打って変わり、その踊りの見事さに鬼達は魅了され言葉も無く、音楽が終わると同時に拍手の嵐が巻き起こりました。
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