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「面白いからに決まってるだろう。お前見たかよ。いもしない狼に怯えるあいつらの顔。嘘だとわかって驚いたあいつらの顔。最高じゃないか。それに、真面目にあくせく働いても辛いだけさ。自由に寝たり遊んだりする方がよっぽど楽だし楽しいだろ? 家なんて雨露さえ凌げればそれでよし。食い物だって、森に行けば木の実だったりキノコだったりいろいろあって困る事はないぜ」
「でも、それじゃ村の皆に悪いよ」
「悪い事なんかないさ。俺は勝手に生きてるし、騙される方が悪いのさ」
「そうかな……」
「そうさ。そんなことよりも、お前は、毎日毎日あいつらにこき使われるだけで面白いか? いいなりになってあくせく働くだけで楽しいのかよ」
「楽しいとかじゃないよ。僕は皆に住むところも貰っているし、ご飯も貰ってる。その恩を返さなくちゃ」
「恩ねぇ。でも、それじゃつまらないだろ? お前も偶にはサボったり遊んだりしたいと思わないのかよ? いや、思うはずだ。思わなくとも、やってみると楽しいもんだぜ」
嘘吐きな少年は、心底楽しそうな表情で力を込めて喋ります。それにつられるように、
「そうかも……」
と正直な少年は呟いてしまいます。すると、
「そうだ! 俺とお前、入れ替わって見ないか?」
と嘘吐きな少年はとんでもない事を言い出します。正直な少年は驚き、自分に君みたいな事は出来ないと断りますが、嘘つきな少年の言葉の巧みさと、心のどこかにあった、いつも怒られてばかりいるけれども気ままな生活を送る目の前の少年への小さな憧れに動かされ、遂には首を縦に振ってしまいました。
次の日、嘘つきな少年は村人達に気付かれないようせっせと働き、正直な少年は、入れ代わったからと言って特にやることも思いつかず、丘の上に登って寝そべり、村の様子を”ぼぅ”っと眺めています。
空は雲もまばらで青空が広がり、風は緩やかで、太陽は暖かな陽射しを運んでいます。正直な少年は次第にうとうととし始めますが、丘の向こうに見慣れない生き物が現れたのを確認します。
(お、狼だ……!)
少年は慌てて飛び起き、
「狼が来たぞー!」
と叫びながら村へ駆け下りますが、今度は村人達は聞く耳を持ちません。そこへ狼が駆け下りてきて村人達に襲い掛かりました。
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