零号:彼女が出会った訳

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「ひー、らぎっ、のっ、 ボケェっ!!」 怒声と共に乾いた音がよく響く。 あたしが旦那を平手打ちした音である。 目の前には呆気にとられた旦那。 そりゃあ会話の途中でいきなりぶたれたんだ、 呆けもするだろう。 だけどそれは忘れてるって事でもあって、 あたしはますます悲しくなった。 やべぇ、ちょっと涙出てきた。 居候している弟が電話の途中だったらしい、 携帯を握りしめたまま心配そうに様子を伺っている。 奴ももう大学生、 ずいぶん大きくなったもんだ。 「もういい、勝手にしろ」 「えっ、ちょっと、風香ちゃん!?」 慌てる夫に構わず 部屋を飛び出す。 自室でカバンに入りそうな物片っ端から放り込んでその足で家を出た。 「待ってよ風香ちゃん! なんで怒ってるの!? 言ってくれないと分かんないよ!」 夫の制止が 夜の空に消えていく。 足早に遠ざかったせいでそれもすぐに小さくなった。 ああ、もう! こんな事でぶち切れるなんて、 あたしも女々しくなったもんだ! .
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