三等:つっぱる彼女と怒った彼氏

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そう思っていると、 風香ちゃんはすっと道路の先を指さした。 「こっから三百メートルも歩いたとこによ、 ぼっろいアパートがあんのよ。 そこの4号室からあたしの弟をここに連れてきてほしい」 「ちょ、ちょっと!?」 「証明としてこれも持ってけ」 そう言って握らされたのは 小さな子どもが作ったと思われる厚紙のメダル。 『いつもあそんでくれてありがとう』 と下手な字で書かれている。 いや、問題はそういう事でなく。 「弟を逃走に巻き込むつもり!? 何考えてんの!」 「連れてくだけだ、物騒な事には関わらせない! 俺んち親がいねーからよ、 一日以上弟を一人で置いとく訳にゃいかねぇんだ! お前ならまだ顔が割れてねぇ、 いけるだろ」 その弟が何歳かは知らないが、 一人で置いておくには危険な年齢なのかもしれない。 なにより懇願するような顔で頼まれて 僕は何も言えなくなった。 暴力的な面しか見ていなかったが、 風香ちゃんにはこういう所もあるらしい。 「……分かった。 ここに連れてくればいいんだね」 「おう、話が分かるじゃねぇか! 頼んだぜ」。 本当ならとっくに自宅に帰っているはずの僕はため息をついた。
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