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僕の視線に困ったように笑いながら、
風太君は頬をかいた。
「うち、今暖房壊れてるんですよ。
夜になると冷えてくるから」
外見に似合わない大人びた口調に
僕は目を見開いた。
暖房がない?
このオンボロアパートならそれも納得だが、
まだ秋口だ。
冬になればこの子は一体どうするつもりなのだろう。
「……あのー、柊さん?」
用件はなんですか?
と風太君がこちらを見ている。
はっと我に返って僕は考えを止めた。
「あ、うん。
君をお姉さんの所に連れていくように
頼まれているんだ」
「お姉ちゃんから?
何か証拠はありますか」
手作りのメダルを見せた後の
風太君の行動は早かった。
しかしとっさに証拠はあるかって聞く
小学生もどうなんだろう……?
てきぱきと身の回りの物をまとめ、
コンパクトなリュックに詰めて
火元をしっかし確認してから出てきた風太君に、
ひょっとしてこういう事慣れてるんじゃないだろうなと
少々不安になる。
とはいえ数分で出てきてくれたのはありがたい。
僕は風太君の手を引いて
そそくさとアパートを後にした……予定だったが。
「待ちなさい」
静かな声で呼びとめられ、
僕はギクリと身を震わせた。
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