零号:彼女が出会った訳

5/6
前へ
/56ページ
次へ
「違うんですか? だって、喧嘩したから荷物まとめてここに来たんでしょ?」 あたしの家は高校の頃 両親が離婚のちごたごたしている間に両方他界してしまったので、 売り払って弟との生活費に消えた。 住んでいたアパートも柊との結婚を機に引き払ったため 一般に言うような実家は今のあたしにはない。 「喧嘩っつったってあたしが勝手にまくしたてて 飛び出しただけだっつの。 ……柊にもおめぇにも悪い事しちまったな、 明日になったら戻るからよ」 といっても明日になれば 柊は学会とやらで出かけてしまっていなくなる。 海外と言っていたので再び会えるのは数日後になるだろう。 元々その話が原因で あたしは旦那に平手打ちをかましたのだ。 「しょうがねーって分かってるけどよぉ…… 『約束』したじゃねーか、あの時」 「約束?」 机に突っ伏しながらうわ言のように呟いて、 すぐにしまったと気づく。 目の前にはゴシップアンテナをおっ立てて 興味津々でこちらに迫る朱音がいた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加