零号:彼女が出会った訳

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「約束ってどういう事ですか~? あの時っていつ!?」 「いや、今のは別に……」 「ひょっとして柊さんと出会った頃?! 一体何の約束したんですか?」 慌てて前言撤回しようとしたが、時すでに遅し。 朱音の奴はがっぷりと話題に食いついていた。 話してくれるまで離さないとばかりに あたしの腕にしがみつく。 「ほらほら、とっとと白状してくださいよ! お酒飲んでぜーんぶ吐き出しちゃいなさい!」 どばどばと酒を注ぐ朱音に、 観念して溜息をついた。 どうせ酒の席の話だ、大抵は冗談で片付くだろう。 朱音がこういう話を 軽々しくしゃべる奴ではないという事は知っている。 「しょーがねぇな……冗談半分で聞いとけ。 長くなっから 寝た時のために毛布でもかぶっとけよ」 「あいあいさっ」 いそいそ二人分の毛布を持ってきて 隣に座り込む朱音の様子に、 遠い昔弟にこうして絵本を読んでやった事を ふと思い出しあたしは苦笑した。 「ありゃ柊が大学生の頃だったな。 あたしはまだ高校生だったし何の接点もなかったんだが、 偶然ってのは恐ろしいもんだぜ……」 そう。 今から何年も前の話だ。 あたしと柊は、 とある裏路地で出会った。
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