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「初,私は初めて身内以外の者に負けてしまった」 楓の言葉に,お初は絶句した。 「真でございますか…姫様」 お初が疑うのは無理も無い。 この皐夜家で,楓を剣技で打ち負かしたのは父と兄達だけだ。 「初めて,負けてしまった…」 形の良く,薄い唇を噛み締め,楓は呻いた。 「女だと皆に侮られたく無い。だから,鍛練も積んでいたのに」 お初は,楓が可哀想に思えてならない。 彼も,幼い頃は人並みに喜怒哀楽を持っていた。 しかし,七つになった頃から,無表情になり,まるでお面の様に喜怒哀楽が無くなった。 ただ,己が運命に逆らわず,受け入れる事しかしない楓。 「お初……私は,近くに嫁がされるらしい」 「承知…致しております」 お初は,楓を差し出す事により,同盟を組む,という話が出ている事を一志より聞いていた。 楓には誰も言ってはいなかったが,聡明な楓は気付いていた。 「私は,嫁ぐ事でやっと皐夜家の役に立てる……」 お面の様な美貌に,楓は久しぶりに微笑みを浮かべた。
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