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「すまない…時雨,本当にすまない…」 配下である武将の前にも関わらず,猛火は謝り続けた。 「猛火,泣くな。時雨が困っておるだろう?」 一明が,猛火を気遣い,話かけた。 「あぁ,……この皐夜猛火,動揺しおったわ」 顔を上げると,猛火はすでに,何時もの自分に戻っていた。 「時雨。直ぐに,水瀬家へ嫁げる様に準備致すのだ」 「仰せのままに,父上」 「姫様,水瀬家へ向かわれても,お初が何時でも側におります」 「初がおるなら,私も安心だ」 楓の周りでは,侍女達が,明日にでも嫁げる様に衣服の整理をしているところだった。 「姫様は,本当にお美しいから,姫様を選ばれた水瀬の次期当主殿も,御目が高いですね」 侍女の一人,万が楓に話し掛けた。 万は,侍女の中でも取り立てて明るく,有能な娘だった。 「私は,自分の宿命を生きてゆくのだ――――」 そのとても小さな楓の呟きは,侍女達の走り回る音に掻き消されていった。
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