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世間では,楓は女として存在している。
婚儀の日は,直ぐに訪れた。
「姫様……本当に,お美しゅうござりまする…」
お初は,涙を流しながら楓のこの時代での花嫁衣装姿を見ていた。
「初…恥ずかしい……」
白粉を顔に塗り,その元々緋い唇に,紅をさした楓は美しすぎであった。
「大殿と,兄上様方が御出になられておりまする」
万の声が障子の外から聞こえる。
「通しなさい」
楓がそう告げると,障子が開き,此方も着飾った父と兄達が立ち尽くしていた。
「お入りになられては?」
クスクスと,口元を押さえて楓は笑みを浮かべた。
「す…すまん。思わず見とれておったわ」
普段は絶対に言わない事を,一志は言った。
「この服窮屈だ……」と言って,猛火は少し顔を赤らめながら,楓から目を逸らした。
「時雨……美しいぞ」
長男の一明は,少し顔を歪めながらも,祝った。
「父上,兄上達…。楓は皐夜家のために,水瀬家へ嫁ぎます」
楓は頭を垂れた。
「時雨。有難う……」
父は,初めて涙を流した。
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