6/18
前へ
/127ページ
次へ
世間では,楓は女として存在している。 婚儀の日は,直ぐに訪れた。 「姫様……本当に,お美しゅうござりまする…」 お初は,涙を流しながら楓のこの時代での花嫁衣装姿を見ていた。 「初…恥ずかしい……」 白粉を顔に塗り,その元々緋い唇に,紅をさした楓は美しすぎであった。 「大殿と,兄上様方が御出になられておりまする」 万の声が障子の外から聞こえる。 「通しなさい」 楓がそう告げると,障子が開き,此方も着飾った父と兄達が立ち尽くしていた。 「お入りになられては?」 クスクスと,口元を押さえて楓は笑みを浮かべた。 「す…すまん。思わず見とれておったわ」 普段は絶対に言わない事を,一志は言った。 「この服窮屈だ……」と言って,猛火は少し顔を赤らめながら,楓から目を逸らした。 「時雨……美しいぞ」 長男の一明は,少し顔を歪めながらも,祝った。 「父上,兄上達…。楓は皐夜家のために,水瀬家へ嫁ぎます」 楓は頭を垂れた。 「時雨。有難う……」 父は,初めて涙を流した。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加