19人が本棚に入れています
本棚に追加
――頭が,ぼうっとする
楓は,輿に乗り,水瀬の城へやってきた。
少しだけ,怖かった。
男達は,欲望の目で自分を見るのだから。
「若君の準備が出来るまで暫しお待ち下され」
老臣が,楓に語りかけた。
ただ無言で,待った。
「若君が参ったぞ」
――ビクッ
遂に,来た。
あの日以来の再会。
「楓。久方ぶりじゃな……」
頭を垂れ,微かに震えている楓の顎をとり,顔を上げさせた。
「やはり……お前は美しい」
「若君。お戯れは後程になさって下され。婚儀の儀を致さねば」
水瀬忠行は,無表情に頷いた。
――美しい?
――私が?
楓は,心の中で,自問自答していた。
「―――――――」
「―――――」
誰かが話しているが,頭には全く入ってこない。
此処からは,父や兄の顔が伺える。
だが,お初はいない。
侍女の一人であるお初は,部屋に控えている。
――私は,美しくなんか無い
この日,皐夜家の楓は,水瀬忠行の正妻,正室になった。
最初のコメントを投稿しよう!